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Vipère au poing 毒蛇を握りしめて

フランス映画 (2004)

フランスで最も活躍した子役ジュール・シトリュク(Jules Sitruk)の映画。彼は、6本の映画に出演している。主演は、そのうちの最初の4本だが、この映画がその最後にあたる。出演時は恐らく13才。声変わりの直前だ。この映画でのジュールの「あだ名」は「ふくれっ面」。確かに、彼はよくそうした顔をする。特にこの映画では、映画史上最悪の母親に、手を変え品を変え虐められるのだから、不機嫌で反抗的になるのは当然だ。その鬼のような母に、子供なりに考えて逆襲するところが面白いというか、見所だ。このリアクションがないと、見ているだけで後味の悪い映画になってしまう。『Mon fils à moi(息子は私のもの)』のジュリアンは、性格が優しすぎて虐められる一方。それが最後にきて爆発する。しかし、この映画のジャンは負けてはいない。加虐的な母親に、最初は受動的に反発し、次第にそれが能動的な復讐へと変わっていく。しかし、観ていて暴力映画という印象はない。舞台が1926年の名門一族なので、一定の歯止めがかかっている。後は、ゆっくり、悪辣な母親ぶりを見て楽しめばいいのだ。最後に勝つのはジャンなのだから。両親がベトナムに行っている間に現地で生まれた三男役のピエール・ステヴナン(Pierre Stévenin)も、一応リストに加えておく。長男のウィリアム・トゥーユ(William Touil)は年齢不詳だが、17才以上と判断し除外した。

映画は全編がロケ。特にフランスの田園にある城のような館は、建物の中も外もとても雰囲気が良い。祖母がまだ生きている頃の優雅で幸福な日々。それが、祖母の死とともに一変する。ジャンの記憶が全くないほど昔にベトナムに行ったきり、ほとんど音信不通に近かった父母が帰って来たのだ。人はいいが妻に頭の上がらない父。すべてを自分の支配下に納めないと気のすまない母。それに抵抗の素振りを見せるジャン。母は、ジャンの中に、自分の分身を見て、ますますジャンを憎み、強く支配しようとする。母と似た性格のジャンは、それにますます強く反発する。2人の争いは、一線を越え、母は、ジャンを感化院に入れようと画策し、ジャンはそんな母を毒殺、次いで、水死させようと試みる。それに失敗したジャンを、母が自室に閉じ込めた時、ジャンは思い切った行動に出る。そして、その行為が、最終的には、ジャンの少年時代の終焉を招くことになり、母からの解放への道を開く。非常に文学的な作品だ。台詞一つ一つが磨き抜かれている。この映画は、私が、購入したDVDに字幕をつけてみようと初めて思い立った記念すべき作品。フランス語の字幕しかないので、辞書だけを頼りに、かなりの時間を費やして2005年の夏に完成した。今回改めて観直したが、訳にほとんど間違いがなくてホッとした。もちろん、著作権上、門外不出なので、単なる自己満足に過ぎないのだが。

ジュール・シトリュクは、ハリウッドのように子役を使い回ししないフランスにあって、多くの映画に主演しただけあり、さすがに演技は巧い。しかも、少年期最後の主演作なので、彼の集大成の演技が観られる。ストーリーも複雑で、主人公は多面的な性格の持ち主。並みの子役ではとても勤まらない。なお、ピエール・ステヴナンは、ごく普通の少年。そう言っては、可哀想だが。


あらすじ

最初にお断りしておこう。全編にわたり、大人になってからのジャンの独白がちりばめられている。普通の台詞と混同しないよう、青字で表記する。さて、映画は、その独白から始まる。「自分の子供時代を、選べる者はいない。果たして、私は、幸運だったのか? 王様になれるか、ジャガイモで終わるかは運次第だが、私は、何も、好き好んで、ベランジュリーに生まれた訳ではない。200年続いた高名な一族レゾー家の、一員として田舎で暮らした、あの輝かしい日々。1926年のクリスマスが、子供時代の最後になろうとは、思いもよらないことだった」。城のような館には、召使を除けば、ジャン、兄のフレディー、祖母、養育係のミス・チルトンしかいない。父と母はフランス領インドシナ連邦に行って8-9年、不在のままだ。ジャンは12-13歳なので、小さい頃に別れたきりだ。この日はクリスマス。ジャンとフレディーに、祖母からクリスマス・プレゼントが渡される。ジャンへは玩具の弓矢(1枚目の写真)、フレディーには長ズボンだ。そして、村の司祭を交えたクリスマスの晩餐が始まる(2枚目の写真)。祖母が、「忘れるところだった。お父様たちからの、贈り物ですよ」と言って、1通の封筒を2人に渡す。兄が封を開ける。ジャンがワクワクした顔で覗いている。その時、司祭が、「ご子息方は、サイゴンに長らく滞在なのですか?」と祖母に訊く。「とても、気に入っているようですわ」。「将来、お会いできますか?」。「知りませんね。あの嫁には、会いたくありません」。封筒の中身は簡単なクリスマス・カード。しかも、「Merry Christmas」の印刷文字の下に、父母のサインがあるだけ。真心がまるで感じられない。これには2人もがっかりする(3枚目の写真)。しかも、印刷文字は英語。ジャンが、「ムーリ・クリスマス… 何て意味なの?」と訊く。ミス・チルトン:「メリー・クリスマス。クリスマスおめでとうって意味よ」。「どうして英語なの?」。祖母:「粋だと、思ってるんでしょ」。こう言うと、体調の良くない祖母は、「ごめんなさい、坊やたち、気分が悪いの」と言って退室してしまう。ジャンは、「お祖母様、病気なの?」と心配そうに訊く。司祭は、「お祖母様は、神の元に召されても不思議のない年なのじゃ」と諭すように言う。「お祖母様、死んじゃうの?」と不安が募る。ミス・チルトンは、「そんなことないわよ、おチビさん」となだめるが、ジャンは、「お祖母様の命が残り少ないと思うと、気が重い」とつぶやく(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ジャンは、隠れ家の木に登ると、天に向かって祈る。「神様、お祖母様には死んでもらいたくありません。そこで、交換条件を言います。僕はチョコを食べるのを止めます、だから、お祖母様を、取り上げないで下さい」。しかし、雪の降る夕方、木の上は寒い。「これじゃあ凍えちゃうから、ちょっとだけ食べちゃおうかな」と、チョコをかじってしまう。「何て、おいしいんだ」(1枚目の写真)。その直後、場面は、ベッドに横たわる祖母の遺体に切り替わる。「ああ、お祖母様。亡くなったのは、僕がチョコを食べたせいじゃないかと、長いこと悩んだものだった」(2枚目の写真)。
  
  

祖母の死を受けて、父母がインドシナから帰国することになる。駅で待つ2人。「あれから数ヶ月後、私たちは神学校の制服を着て、新しい生活がどうなるか、やきもきしながら待っていた」。汽車が駅に近づくと、ジャンが兄に「ママのこと覚えてる?」と訊く。「ちょっぴりな。ママは…」。「素敵?」。「どうかな。どのみち、お祖母様には負けるさ」(1枚目の写真)。優しそうな父が降りてきて子供たちを抱く(2枚目の写真)。ゆっくりと席を立った女性が、客車の出口に近付く。「ママ!」と言いつつ寄っていくジャン。ところが、そのジャンの顔の前に、「降ろしてちょうだい」と、母の靴が突き出される(3枚目の写真)。そして、地面に降りると、「どいて! どいて!」と子供達を傘で払いのけ、荷物の方へと向かう。父は、困った顔をするものの、2人に「弟のマルセルに、まだ『今日は』も言ってないだろ?」と言い、「マルセル!」と呼びかける。「弟なんて、いたっけ?」とジャン。7-8歳の少年が、「君たちが、兄さん?」と訊いて、降りて来る。兄:「僕がフレディー、こいつは 『ブラス・ブイヨン』」。ジャン:「僕がジャン。こっちは 『シフ』」。『ブラス・ブイヨン』は「ふくれっ面」という意味のあだ名。『シフ』は「弱腰」という意味。2人の性格を見事に現している。それにしても、弟ができたことをずっと伏せてきたとは、何という父親だろう。
  
  
  

一家を乗せた車が館の前に着く。使用人が7人並んで待っている(1枚目の写真)。車から降りた父は、館を見上げ「懐かしのベランジュリー!」と嬉しそうに言う。そして、「ぜんぜん変わっていない!」と母の顔を見やる(2枚目の写真)。「そう? いつも、陰気なだけじゃない」。実にすげない返事だ。父の顔が急に曇る。子供たち3人になって、兄が、「マルセル、これからお前のあだ名は『クロペット』だ」、と言う。『クロペット』は「ちくり屋」という意味。「どうして?」。「僕が、気に入ったからだ。もう決まったことさ。僕が最年長だからな。あだ名を持つのは、古代ローマの風習だ」。「レゾー一族の人間にはブルジョワ的なところが多分にあって、生活のために働くことを良しとしなかった。母の財産のお陰で、父はライフワークとして、ハエの研究に没頭することができた」。だから、父は母に頭が上がらない。母が、さっそくミス・チルトンに命じる。「家事と台所は、フィーヌで十分です。他の召使いには8日以内に暇を出しなさい。庭と農園はブレーズに任せます。フィーヌは、フィンランド語しか話せない若い娘だ。
  
  

母は、子供部屋を検分に行く。開口一番、「ブレーズ、そのストーブを私の部屋まで運んでお行き。子供たちには、暖房など無用です」。ベッド見て、「その枕は外して。背中が丸くなるだけ。キルトも不要。布団は1枚で十分」。壁に貼ってあった2人のお気に入りのポスターも剥がす(1枚目の写真)。棚の前に行くと、「財布とネクタイピンは、私が預かっておきましょう。金の鎖と万年筆も… お祖母様は甘やかし過ぎね。こんなに贅沢させるなんて、バカバカしいにも程がある」。クリスマス・プレゼントにもらった弓を見つけ、「これは、何なの?」。「僕の弓… クリスマスに、お祖母様が下さった」。「危険すぎるわ。没収します」。そして、「部屋をきちんとしておくこと。後でチェックしますよ。クモの巣一つあっても、許しませんからね」。さらに、「2人が一緒の部屋に寝るのは、もう止めないと。ジャン、あなたの寝室は…」と言うと、要らない物が捨ててある部屋にジャンを連れて行き、「ここです。ちゃんと片付けたら、いい部屋になるわよ」(2枚目の写真)。2人にとって、最悪の出だしだ。不満そうな2人に対し、「そんな顔は、気に喰わないわね。目を逸らすんじゃないの。考えてることなんか、お見通しよ」(3枚目の写真)。「かくして、略奪が一段落すると、すべてはキャビネットの引出しに消えてしまい、その鍵は他の鍵と一緒に女主人の胸の間にしっかりと収まった」。
  
  
  

夕食の時間となる。「食事の時間は、母が、私たちに権威を見せつけ、嫌がらせを行う格好の舞台となった」。母は、「子供たちの健康に、良くないから」とバターを片付け、「その子たちにカフェオレは要らないでしょう」「マルセルは別ね。お腹が弱いからミルクを飲ませないと」とマルセルを特別扱いする。次は父の番。「さてと、子供たち、これから、お前たちには ある決心をしてもらいたい」「お母様と私で決めたことだ」。つまり母が決めたのだ。「ロシア革命の影響や、フランの急落で経済的に大きな打撃を受けたから、私たちも財布のヒモを締めないといけない」。母が「お祖母様は、身分不相応な暮しをされてきたから」と割り込む。父:「その1。ウチには電気は引かない」。母:「電気に夢中になると、信仰に差し障りが出ますからね」。父:「その2。フレディーとジャンは、もう、神学校に行かなくていい」。兄:「そんなメチャな!」(1枚目の写真)。ジャン:「そう、メチャメチャだ!」。母:「お黙りなさい! フィーヌ、明日の朝、2人の制服をナントに送り返すこと」。父:「2階のラウンジは、勉強部屋に改造する」。母:「朝5時は、お祈りの時間。朝6時に、朝食」。その時、父が、1匹のハエに気付き、さっそく捕まえてビンに入れる。ビンの中のハエに見とれるジャン(2枚目の写真)。すると、母が、「ジャン、その姿勢は何です!」と言いざま、手の甲にフォークを突き刺した(3枚目の写真)。4つの穴が開く。さすがに父も、「ポール、やり過ぎだ!」と言うが、痛さに涙を流すジャンを見ても、それ以上何も言わず、「ハエを、標本にして来ないと」と言って出て行ってしまう。最悪の母と最低の父。「その日の夜には、この女を『ママ』と呼ぶ必要はない、との結論に達した」。
  
  
  

さらに、独白。「彼女は、毎日のように、新たな無理難題を思いついた。この日は、庭師の監視の下で、休息の自由時間を庭仕事にこき使われた」。「ブラス・ブイヨン、タンポポの根切りには鋤を引かないとダメよ」「シフ、もっと、熊手でならして」「マルセルは上手ね。これを、あげましょう」とクッキーをやる。また、特別待遇だ。そもそも、ちゃんと名前で呼んでもらえる。兄が「クリスマスこの方、クッキーなんて お目に掛ったことがない」とジャンに囁くと、「ヒソヒソ話は止めなさい」と叱られる。口を尖らせるジャン(写真)。
  

食事で、大量の豆を食べさせられるジャンとフレディー。「フレディー、もっと早く食べられないの?」と注意され、ジャンが「兄さんは、気分が悪いんです、おく様… いえ、お母様」と答える。「お腹が痛いだけでは、死にませんよ」。ミス・チルトンが「赤インゲン豆の食べ過ぎですわ、絶対に」と庇うと、「違いますよ! その子が、オーバーにやってるだけです。下剤を飲ませてやれば、十分」。母がキャビネットを開け、ヒマシ油を取り出す。「フレディーの呻き声を聞いていると、自信が恐怖に打ち勝ったのが分かった。もし、父のハエのようにピンで刺されたくなかったら、運命は、自ら切り開かなくてはならない」。ジャンはキャビネットに差し込んだままの鍵を奪うと、自室へ走った。鍵の複製を作るため、石膏で型を取るのだ。一方のフレディ、「そこに、お座り。ヒマシ油を飲めば良くなるわ」と言われ、「お祖母様は、チョコレート入りの下剤を下さった」と抵抗するが、「お祖母様、お祖母様、ばっかり… さあ、口を開けて」と無理矢理口に流し込まれる(1枚目の写真)。そして、思わず口から吐き出すと、「このバカ息子!」と頬をぶたれる。ミス・チルトンは、「これ以上、奥様のやり方には付いて行けません!」と抗議し、あっさりクビにされる。鍵を返しにきたジャンは、ミス・チルトンに見られているのに気付き、黙っていてと合図する(2枚目の写真)。「可哀相な子。あなたの母親が、そんなことをさせてるのよ」とつぶやくミス・チルトン。ジャンは、部屋に戻り複製の鍵を完成させる(3枚目の写真)。夜、兄に、チョコレートを渡し、「鍵をコピーしたんだ。これで、何でも思いのままさ。悪くないでしょ」と慰める。「兄貴、あいつに、すごい意地悪されたね」。兄:「トイレ紙に、鍵を掛けるなんて、気違い女は『鍵気違い』だ」。ジャン:「『十字架新聞』で、お尻を拭くなんて」。「神聖冒涜じゃないか!」〔十字架は切り取ってある〕。「こんなメス豚が信心深いだなんて、とても信じられない」。「お前の言う通り、ひどいメス豚だ!」。「気違い女だ!」。「そう、気が狂ったメス豚さ!」。「気が狂ったメス豚か! 気が狂ったメス豚(Folle cochonne)… 『フォルコッシュ(Folcoche)』だ!」(4枚目の写真)。こうして、母のあだ名は『フォルコッシュ』と決まった。
  
  
  
  

チルトンさんが出て行くと、フォルコッシュは、思い切り改革を断行した」。朝、勉強部屋に集まった3人に、フォリッザ神父が紹介される。ポーランド人で、アフリカで宣教師をしていた老人だ(1枚目の写真)。ミス・チルトンの後任だが、母の思惑と違い、決して意地悪な人間ではなった。神父が首にかけているものを見て、ジャンが「神父様、それ、何ですか?」と質問すると、「ライオンの爪じゃ」と答える。「あなたが、やっつけたのですか?」。「教区民を襲ったのでな」。今度は父が「狩猟をなさるので?」。「高性能の銃を、持っておりますでな」。変わった神父さんだ。「素晴らしい。次の、日曜日、私どもの狩場へご招待しましょう」。母がその後、「それと、毎朝、礼拝堂でミサを行って頂きます。朝5時。朝食の前に」。母が出て行った後で、「朝の5時じゃと!」と呆れる神父を見て、笑うジャン(2枚目の写真)。
  
  

日曜の狩は大成功。子供達も参加し、父が大きな野兎を仕留める。ご機嫌で館に戻る一行(1枚目の写真)。しかし、館に近付くと母が苛立たしげにベルを振っているのが見える。そして一行がそばまで来ると、「ベルの音が、聞こえなかったの?」と非難する。「どのベルかな?」と父。「ウチには、これしかないでしょ。力いっぱい、3度も鳴らしたのに。誰も聞かなかったとは言わせませんよ」。また、無理難題だ。ここで、よりによってジャンが弁解する。「僕たち、谷間にいたから…」。「お前になんか、聞いてないわ。お前の役目は、お父様に注意してあげることでしょ。狩を止めさせるべきだったのよ」。さすがに頭に来た父が、珍しく食ってかかる。「ポール、一生で一度ぐらい口うるさくするのを止められんのか?!」。その態度に驚いた母が、「何ですって?」と訊く。「迷惑千万だ、と言っとるんだ! このガミガミ女!」(2枚目の写真)。しかし、父の剣幕もここまで。母に、小声で「この間抜け! 子供たちの前で、何てことを口走るのよ。恥ずかしくないの?」と言われると、急に黙ってしまう。実にだらしない。「ジビエは厨房に運びなさい、私は着替えてくる」と言って、早々に立ち去る。迷惑をこうむったのは子供達。「子供たち、手を洗いに行きますよ」と言って、誰もいない部屋に入れる。マルセルは、耳をつかまれただけ。兄は、数回叩かれ床に座り込む。最後はジャンの番だ。ジャンを睨み付ける母(3枚目の写真)。ジャンは、思い切り頬を叩かれる。指輪による切り傷が付くほどのひどい叩き方だ。怒ったジャンが逆襲に出る。そのジャンの髪をつかんで振り回した母は(4枚目の写真)、カーテンを束ねておく房紐を鞭替わりにして、何度もジャンの背中を叩く(5枚目の写真)。床に倒れ込むと、「鞭」は剥き出しの脚にまで及ぶ。床に倒れても、母を睨み付けるジャン(6枚目の写真)。
  
  
  
  
  
  

その日の夕食。ジャンは、ひたすら母を睨み続ける。頬には傷がはっきりと残っている。父は、何か言いたそうだったが、気が弱いので何も言わない。ジャンはそんな父を見て、自分で戦うしかないと、ますます睨む。母と目が合うが、決して逸らさず、ひたすら睨み、憎む(1枚目の写真)。その夜、ジャンは館の周囲の木に、ナイフで字を彫っている(2枚目の写真)。「私は、復讐を誓った。フォルコッシュに復讐を。それに、全知全霊をかけた」。ナイフで刻み込んでいる文字は、「フォルコッシュに復讐を(vengeance à Folcoche)」の頭文字をとって「VF」だ。「母の愛は、永久(とわ)に心に残るなどと言われるが、母への憎しみはどうだろう? 『私は憎む、君は憎む、彼は憎む、私たちは憎む、君たちは憎む』。私は、この動詞の活用形を、どこまでも早く口ずさめるまでになった。復讐だ! フォルコッシュに復讐を!」。刻んだ文字はどんどん増えていく。多くの木の幹に彫られた「VF」の文字が、ジャンの怒りの大きさを物語る。
  
  

夕食の場で、父が、「なあ、ポール、夏が近づいてきたが、そろそろ、お客のリストを作らないとな。予算も立てないと」と言い出す。年に一度、一族が館に集まる恒例の行事だ。これまでは祖母が開いていたが、今回初めて父が主催する。母がさっそく反論する。「どこにそんな、お金があるの?」。一方のジャンは、母に対する新たな攻撃を始めていた。「ピストルのように『口撃』するのが、あんたの本領だ。だから、あんたの独壇場の食事の場で、宣戦を布告してやる。あんたが、何を『口撃』してきても、穴が開くほど見つめているだけだ。テーブルに、ちゃんと手を置いているから、礼は失していない。私の行動には付け入る隙などない。フォルコッシュ、あんたは、見つめられても文句は言えない。私は、じっと見つめるだけ。そして、心で話しかける。こう念じるのだ。『僕を見ろ! やい、フォルコッシュ、イライラしないか!』」。かくして、ジャンは母を見つめ、母もそれに気付き睨んでいる。ジャンは決して睨んではいない。ただ、飄然と、馬鹿にしたように見ているだけだ。「そうそう… 私の術策に乗ってきたな、我が醜き母よ。この憎しみが分かるか? 私は、うっすらと笑う。あんた以外には、誰にも分からないように。見つめ続けて、イライラを募らせてやる」。このジャンの表情が、何とも言えない(1枚目の写真)。母が目を細めてジャンを見る。「あぁ、あんたが顔をこわばらせたところは、毒蛇そっくりだ」(2枚目の写真)。映画の題名にもなっている、重要な言葉だ。付け入る隙のないジャン。だから母は、兄に怒りをぶつける。フォークで手の甲を刺し、「お前、何て姿勢なの!」と叱る。食事が済むと、手を押さえながら、兄が「2分20秒も睨んでたな」とジャンに言う。「フォルコッシュもギブ・アップさ」。その夜、珍しく父と母が話している。「ジャンには困ったものね。あの態度は反逆児そのもの。マルセルたちに悪い影響を与えかねない」。「君が厳し過ぎるから、あんな風に反発するんだ」。「厳し過ぎる? 呵責な人間だと言いたいのね。楽しんでやっているとでも? 自分の子供を憎むのを、楽しんでやっているとでも?」。「そうだポール、君は心底楽しんどるぞ!」。バカだと思っていたら、このダメ父も、少しは見ていたのだ。「何ですって? 言い掛りだわ! 何て、不当な言い掛り!」。この時、母が、急に苦しみ出す。実は、胆石発作なのだ。だから、残念ながら重病ではない。しかし、この時点でそのことは分からないから、父は動転する。さっそくジャンは隠れ家の木に登ると、天に向かって祈る。「神様、あの時、僕は、お祖母様を助けて下さるよう祈りました。でも、願いは叶えて頂けませんでした。ただ、それは、あなたが思い違いされていたせいかもしれませんね。しくじりを、挽回されるおつもりはありませんか? つまり、あなたの元に母を召して下さり、そのまま、引き止めておくということで。いいですか。僕は本気なんです。もし、望みを叶えて下されば、あなたを永遠に信じますし、将来、司祭になってみせます」(3枚目の写真)。その時、雷が鳴る。「いいぞ、契約完了」。病気のことを聞いて、テレーズ叔母がやって来る。父に向かって、「どうして、子供たちを、神学校に行かせてやらないの? ママの希望だったじゃない」と非難する。「寄宿費がかさむことにポールが反対してね」。「あなたって人、まるで形なしね」。「私たちは、『夫婦財産の非共有』を条件に結婚したからな。戦争前は順調だったが、今はアップアップだ。あれの持参金で、生活させてもらっとるから」。「農園を売ることだって、できたはずよ!」。「百年前から、一族の持ち物なんだぞ!」。「働くことは、考えなかったの?」。「まさか、わが一族は、働くことなどしないんだ」。これで、この父の本性が明らかになった。
  
  
  

そして、いよいよ一族の集まり。その開幕は、シャンデリアへの点火から始まる。蝋燭しか使えなかった時代、天井に吊られたシャンデリアの沢山の蝋燭に、どうやって火を点けるのか? そのプロセスが最初に紹介される。蝋燭には2本の導火線が結びつけてあって、手前に点火すると、順次 燃え移って行くのだ。写真は最後の瞬間、一番左側の導火線が燃えている(1枚目の写真)。「この巨大なシャンデリアは、レゾー一族の誇りだった。点灯されるのは、一族のすべてが館に集(つど)う時のみ」。館の前には自動車や馬車が連なっている。入口では、父母が並んで来客を迎える。そこに1通の電報が。母の両親が欠席するという知らせだ。「父君は上院で、母君は遠出… 口実かな?」。母はそんな皮肉にはびくともしない。3人の子供は、プチフルのサービス係。しかし、一度に現れる訳ではない。母がケチって1着しか礼服を用意しなかったので、年齢順に1人ずつ現れる。兄には小さすぎるので、チョッキの下に白いシャツが見えて、何とも格好悪い。兄は、途中で勉強部屋に戻り、勉強中のジャンと交代する。服を交換している姿を見て、神父が、「この家のやり方は、わしには全く理解できん。君たちの両親は、この催しに大金を払っとるのに、3人の子供に1着しか礼服を買ってやらんとは」と呆れる。ジャンは、「僕たち、最下層だから、出費も最少なんです」と言う(2枚目の写真)。会場に現れたジャン。服がぴったり合っている。テレーズ叔母さんも、「ジャン、すごくダンディじゃない」と声をかけてくれる。ジャンの姿を見た母は、「ズボン吊りを 下ろしなさい」と命じる。「何でさ? ぴったりなのに」。「お前の兄さんより、服がピッタリなのが気に入らないのよ」。「ケチケチ女の極意。3人の息子に1着の礼服という発想は、フォルコッシュのものだ。しかし、さすがの彼女も、服が、フレディーには小さ過ぎ、クロペットには大き過ぎ、実は私にぴったりで とても粋に見えるとは、とんだ思惑違いだった」。実にユーモラスだ。母はその間違いを正そうと、人目に付かない場所でジャンを待ち伏せていると、ワザとシャツをはみ出させ、格好悪く見せるようにした。ジャンは、父のそばに寄っていく。さっそく、「ジャン、ズボンが下がってシワだらけだ。たくし上げなさい」と注意される。そこに母が寄って来る。そして、赤いズケットの主賓に話しかける。赤いズケットは枢機卿の印だ。母は、プチフルを運んでいるジャンに向かい、「食べすぎちゃ、ダメでしょ」と濡れ衣を着せる。枢機卿も、「いいかな坊や、大食の罪ほど さもしいものはないんだよ。大罪でこそないが、かような さもしい悪癖は、より破廉恥な行為に転じる恐れもある。最近の子供は甘やかされておるでな」と、のたまう(3枚目の写真)。ジャンは、すかさず、「僕は違いますよ、猊下」と否定する。母は、「猊下に対して、何て無礼な口をきくの。あなたの、大いとこ に当る方ですよ」と叱る。そして、マルセルと交代しろと命じる。それを聞いたジャンは、母親の手にプチフルのトレイを押し付けると、そこからお菓子を全部取り、2人を睨みながらむしゃぶりつく。「あれは、自己を主張するための挑発行為ですな」と枢機卿。勉強部屋に戻るジャンを追って来た母は、ジャンを呼び止め、「私に逆らうなんて、もっての他でしょ! どんな場合でも、私の命令には服従なさい。お前は、私を嫌ってる。お前の祖母とミス・チルトンに、さんざ吹き込まれたせいね」と詰め寄る。ジャンは、「そんなこと、ないぞ。お祖母様は、あんたのことなんか話さなかったし、チルトンさんも、あんたのために朝晩お祈りするよう勧めた。あんたは、僕を憎みたくて たまらないんだ」。母はジャンを叩こうとするが、ジャンは身を引いてかわす。「お前は、まだ小さいくせに頑固なところだけ一人前ね。私を嫌ってるようだけど、一つだけ教えておいてあげる。息子たちの中で、私に一番似てるのは お前なのさ」。睨み合う2人(4枚目の写真)。ジャンにとっては、意外な母の言葉だった。
  
  
  
  

ジャンとの言い争いの直後、胆石発作を再発した母。やっとの思いで自室まで辿り着くと、医者から処方されたモルヒネを注射して、ベッドに横になって眠る。その姿を見に行ったジャン。「目を開けて欲しい、そうすれば また憎めるから。そう、毒蛇だって目を閉じていれば、無害そうに見えるものなのだ」。ジャンは、母が手に握りしめているスカーフを引っ張ってみる(1枚目の写真)。実は、このスカーフには重要な意味があるのだ。翌日、母は救急車で病院に搬送されて行った。ハンカチを振って見送る父と子供達(2枚目の写真)。しかし、車が離れると、3人とも飛び上がって喜ぶ(3枚目の写真)。その日はちょうど夏至の日。夜、父は、「蛙たちが愛を語り、夜の空気も暖かくなったから、今夜は、お前たちに楽園を見せてやろう」と言って、サイゴンで撮影した映像を見せてくれる。1922年にフランスのパテ社が個人向けに発売を始めた9.5ミリ・フィルムだと思われる。父が手回しの映写機で、専用の映写スクリーンに映して見せる。かなり鮮明だ。ジャンは、その中で、母が若い男性と親しげに会っているシーンに着目する。「ママと一緒にいるのは、誰?」と父に訊くと、少佐だという返事。最後に、サイゴンを離れる時の映像で、再びあの男性が母と並んで登場する。そして、男性からスカーフを受け取ると、船から降りた男性に向かってスカーフを振り、叫んでいる(4枚目の写真)。「このシーンに、また、お目にかかろうとは。全くの別人のような、彼女。あのスカーフには、見覚えがある。彼女は、一体、何て呼び掛けたんだろう? 私は、さっそく調べることにした」。フィーヌを呼んできて、映像を見せたのだ。フィーヌは、フランス語はまだほとんど話せないが、かつて聾唖院に勤めていたので、口の形で音が分かるかも、と考えたのだ。母が、スカーフを振りながら発した言葉は、フィーヌによれば「マルヘル」だった。ジャン:「あいつ、マルセルって言ったんだ!」。そして、一緒にいる兄に問いかける。「クロペットに、あの男の名前を付けたこと、変だと思わない?」。「待てよ、お前が言いたいのは、クロペットが、フォルコッシュとあの男の浮気の結果だってことか?」。だから、母は、これまで、マルセルを事あるごとにひいきしてきたのだ。
  
  
  
  

母のいない平穏な毎日。「私が感じたのは、幸せでなく困惑だった。母の辛辣な言葉が聞こえてくるような気がして、それがまた憎しみを再燃させた」。そこに、母の具合が悪くなったという知らせが入る。さっそく一家で病院へ駆けつける。医者は、「奥さんは疲弊されておられるので、3日ともたないかもしれません」と説明する。父:「終油の秘蹟が必要ですか?」。「お任せします」。終油の秘蹟とは、1972年まで使われて言葉で、臨終の病人に対して、聖なる油を塗って祈る儀式だ。「私の心は、罰当たりの期待に膨らんだ。未来の孤児が、さよならを言いに来たのかと…」。ここもユーモラスな表現だ。母が、寝ている一角まで来ると、神父が「子供たち、中に入って、お母さんにキスしてくるのじゃ」と言う。入って行く3人(1枚目の写真)。すると、突然母が目を開け、「一体何です? その汚い頭、だらしない格好は!」。さらに、正面にいる神父を見て、「一体これは?」と訊く。「念のため、終油の秘蹟を授けましょう」と首に紫色のストラ(帯)を掛ける神父。母は、目をカッと見開き、「私は、死にませんよ!」と言い、「この邪魔な物は、一体何なの?」と腕に挿入された針をむしり取る。そして、体を起こすと、「お腹は空くし、喉もカラカラだわ! 誰かハムでも持って来てちょうだい。経帷子なんか要りませんよ」。ただただびっくりして見つめるジャンや神父(2枚目の写真)。家に戻って、相談する3人。マルセル:「僕たち、118フランある」。兄:「フィーヌは、ゼリーの壺を4個手配してくれる」。ジャン:「まだ、たっぷり時間はある。でも、段取りを決めておこう。クロペットは、フォルコッシュに嫌われないこと。お前は、役に立つからな。僕らの、存亡にかかわることを チクって欲しいんだ」。マルセル:「二重スパイだね?」。兄:「その通り!」。ジャン:「それと、昨夜 作った血判状に、みんなで署名して欲しい」。兄:「それ何だ?」。ジャンが読み上げる。「獅子同盟は、ここに忠義と名誉をもって宣言する。みんなは一人のために、一人はみんなのために。生きてし時も、死せし時も」。そして、ナイフで指を切って血を出す。如何にも痛そう。次が兄の番(3枚面の写真)。マルセルの番となり、ナイフを見て躊躇する。兄に「仲間じゃないのか?」と言われ、「唾じゃダメ?」と訊く(4枚目の写真)。これが、ピエール・ステヴナンだ。
  
  
  
  

家族でおいしそうに朝食をとっている。「豆より、おいしいな!」。父が、バターを振舞う。「パパ、ありがとう」。如何にも楽しそうだ。そこに乗合自動車がやって来て、館を望む勝手口の前で停まる。不気味な音楽とともに、降りて来たのは母(1枚目の写真)。食事の最中、窓から母の姿が見える(2枚目の写真)。全員が、急に黙り込む。父は、「ポール、一人で戻ってきたのか! 何て、ムチャなことを!」と言うが、母はそれには答えず、禁止してあるバターに蓋を被せる。子供たちが自由時間に遊んでいるのを見て、「神父様、子供たちは、毎日 自由時間ばかり」と批判する。しかし、神父は、「子供たちに運動しろと言ったのは、あなたじゃろうが。みんな、若い盛りじゃからな。あなたも、彼らの若さに甘んじて、我慢されないと」といなす。不審そうに神父を見る母。母は、夕食の際、叔母が病院に見舞いに来てナントに招待してくれたと話し、自分には旅行は無理だが、父と子供達で行ったらどうか、と勧める。マルセルが、「映画にも行けるね」も言うと、「いいえ、マルセル、あなたは残るんです」。「どうして?」。「小さ過ぎるから」。これには絶対に裏がある。ジャンは「何を、企んでるんだろう?」と兄にささやく(3枚目の写真)。すぐに出発の場面になる。車が出て行き、誰もいなくなると、母は、見送っていた神父に、「神父様、一対一で、お話したかった… あなたの解任について」と切り出す。それを聞いた神父。一瞬驚き(4枚目の写真)、その後、神父らしからぬことを口走る。「こんな狂った家、わしの方から ご免こうむるわい。あの、赤インゲン豆騒動。こんなことで、報酬をもらうのには、もう嫌気がさしておった。コルフォッシュ夫人。子供たちが、あんたに付けたあだ名のことは、知らんかったじゃろう。辞めるに当たり、教えて進ぜよう。フォルコッシュ。『気が狂ったメス豚』を縮めたものじゃ」。神父は ケタケタと笑いながら去って行く。
  
  
  
  

叔母の家に向かう車の中。3人は楽しく歌っている。子供達:「♪奥さんに、悩まされたくなかったら」。父:「♪結婚するな、結婚するな」。さらに、「じゃあ、家庭に勝るものは どこにある?」とクイズを出す。子供たちから返事がないので、「そこ以外の、どこにでも」と答えを言う。余程、妻のことが嫌いなのだろう。叔母の家では、照明に電気を使っている。物珍しそうに電気ランプを見る2人(1枚目の写真)。そこに、アメリカから来た いとこと、その友達が現れる。2人とも若い女性だ。父は、アメリカ女性2人に誘われて初めてのゴルフに挑戦。やり方が分からないので、手を取って教えてもらう(2枚目の写真)。後ろで嬉しそうに見ているジャンと兄。親密そうなやりとりに、ジャンは、「ねえ兄貴、あいつが これ見たら、ブチ切れるだろうね」。その後は、クラブへ。アメリカ風にジャズが演奏される中、叔母とアメリカ女性2人が話している。「アンリエット、帰るわよ。子供たちを連れ戻さないと」。「2人にも、一度くらい 楽しい思いをさせてあげなくちゃ」。「でも、もうかなり遅いのよ!」。「古臭いこと言わないの。伯父さんが見てるから、大丈夫よ」。片隅で座ってワインを飲んでいる2人。ジャンが、「何時かなぁ?」と兄に訊く。「真夜中ごろじゃないか?」。「気違い女に乾杯、メス豚に乾杯! あいつが、僕たち見たら、ブチ切れること間違いなしだ」(3枚目の写真)。夜遅く子供達を連れ帰った父は、酔っ払って最高にご機嫌だ。翌朝、ホット・チョコレートを飲み、「一生、忘れないぞ」と感激するジャン。その直後、電話がかかってくる。叔母の家には、家に電話があるのだ。電話は母からだった。家に電話が引いてないので、わざわざ村まで出かけてかけてきたのだ。母は、「あなたに、報告しなくちゃ… 子供たちの隠し穴にあった合鍵や、血判状や、腐ったパテの壺。悪さも、極まれりね」。そう、これを調べるために、子供達を追っ払ったのだ。そして、分かった以上は、可及的すみやかに呼び戻す。
  
  
  

館に着くと、入口に、母が、背の高い黒服の神父と並んで立っている。母は、父に、「これがトラッケ司祭様、フォリッザ神父の代わりの方です」と紹介する(1枚目の写真)。車から降りたジャンが、「マルセルは、僕たちに お早うも言いに来ないの?」と訊くと(2枚目の写真)、司祭は「君の弟は勉強中だし、君たちにもすぐ授業に加わってもらう。バカンスは、もう十分とっただろうからな。それに、私が間違っていなければ、これは当然の報いだ。すぐに勉強だ!」。前の神父と違い、非常に厳しい。さっそく勉強部屋に行く2人。ジャンがマルセルの書いているノートを見て「確かに、レニングラードより、ペトログラードの方がいい」と言うと、「おせっかいは、止めんか!」と叱咤が飛ぶ。それを無視して、ジャンは「お前が書いた通り、ペトログラードの方がいい。お前はペトロだからな」と言う。因みに、サンクトペテルブルクは、1914-24年はペトログラードと呼ばれ、1924年にソ連が誕生するとレニングラードとなった。また、ペトロもしくはペテロは、一度はイエスを裏切った使徒なので、ジャンはその点を皮肉るのに使ったのだ。司祭は、自分の注意を無視したジャンの頭を棒で叩く(3枚目の写真)。「君のお母さんの、言った通りだ。私は、感化院付きの司祭だったから、何事にも容赦はしないからな!」。夜、犯した罪を父母と司祭の前で告白されられる子供達。1番のマルセルは、「僕、十字架を忘れたことを告白します。フィーヌに悪い言葉を使い、シフを転ばせました。シフが、僕の本を返してくれなかったからです」。母は「この子は、とても正直です」と褒め、「お行き。神様と、お父様と私があなたを許します」と言う。2番目がジャン。「彼女の、新しい攻勢は公開懺悔だった。良心を剥ぎ取られていく中で、両親との親密さが増した」。この「親密さ」とは何か? この先のジャンの言葉から、それが分かるが、フランスらしいエスプリの効いた表現だ。司祭:「白状することは、あるか?」。ジャン:「自分の罪を、忘れてしまいました」。母:「手伝って上げましょうか」。ジャンは、1つずつ指を立てながら答える(4枚目の写真)。「怠惰、妬み、思い上がり… そうそう、邪淫も。テレーズの家に、きれいなアメリカ人がいた! そうだよね、パパ?」。母が「詳しく話して」と言いかけるのを、父が「今日は、このくらいにしたらどうだ」と慌てて止める。だが、神父は「君が、肉欲の罪を思い浮かべたことは、聞くだに おぞましい話だぞ!」と割って入る。ジャンはすかさず、「でも、誰でも、思い浮かべたことぐらいあるでしょ? 年令や、男女を問わず。固い信仰の持ち主だって、最果ての、インドシナの地でだって」。これは、母の不倫を揶揄したものだ。母は、「十分です」と早々に打ち切る。ジャンも相当 鍛えられてきた。結局、血祭りあがったのは兄。「一日中、品行方正でした」と言ったものだから、「この、思い上がり者! 弟から、本を取り上げたじゃないの。罰として8日間の読書禁止」と母から宣告を受ける。父が「懺悔したじゃないか」ととりなしても、「この子は何一つ白状してない。マルセルが正直に言わなかったら、結局 分からなかった訳でしょ?」。
  
  
  
  

夜、子供達だけとなり、マルセルは「この密告者め」と罵られるが、「無理やり、しゃべらされたんだ」。「チクり屋!」。「僕は、兄さんたちの見方だ!」と嫌われまいと必死。「証拠を見せろ」と言われ、兄と一緒に礼拝堂にもぐりこんで、悪さの限りを尽くす。聖水盤にミサ典書を全部ぶち込み、その上からジャンが小便をかける。そして、天を仰ぐと、「さあ、どうだい。神様、そこにいるかい? いないんだろう?」と挑戦的に呼びかけ、下を向いてマルセルに、「いないってことを、証明してやろう」と言う(1枚目の写真)。兄は、懺悔室の中で大便をしようと、踏ん張っている。だが、マルセルが「リキんで!」と言っても出てこない。ジャンは、チボリウムから聖体をつまみ食いし、弾みでチボリウムを床に落としてしまい、大きな金属音が響き渡る。慌てて逃げる3人。屋根を伝って逃げるところを(2枚目の写真)、母に見られてしまう。「私たちの悪ふざけは、ひどいものだった。お祖母様の神様は、確かに好きだったが、母から受ける剥き出しの脅威に対しては、神の存在を否定することでしか対抗できなかった」。
  
  

母の新しい攻勢がすぐに始まる。翌朝、朝食が済んだ後、父に「子供たちは、トラッケ司祭が来てから礼儀正しくなったわね」と褒め、「日曜日に、海辺まで外出したらどうかしら。トラッケ司祭は、以前勤めてらした施設を 見学させて下さるそうよ」と誘い水をかけたのだ。その話に軽く乗る父。前半の海辺は良かったのだが、問題は、海岸から見えた崖上に聳え立つ建物。司祭に案内され、厳重な門をくぐっていった先に、頑丈な鉄格子がある。その先に見えたものは、看守の命令で列になって歩かされる坊主頭の少年達の姿(1枚目の写真)。「前進。口をきくな! どんどん進め、このクズども! 口をきくなと、何度言わせるんだ!」と叱咤の声が飛ぶ。一人の少年は、壁に鎖で繋がれ、金属容器から手づかみで食事を取らされている。怯えて父に抱きつくマルセル。ジャンには、母の意図がよく分かった。自分をここに入れるつもりなのだ。母をじっと見るジャン(2枚目の写真)。そのジャンの視線を冷たく受け止める母(3枚目の写真)。固い意志がはっきりと見て取れる。
  
  
  

翌日、ジャンが、「パパ、村までバターを取りに行ってきます!」と階下から叫ぶ。外へ出て行ったと母に思わせるためだ。実は、出かけてなんかいない。「私は、フォルコッシュが汚い手を使ってくると、予想していた。彼女の考えることなど、手に取るように分かる。私は彼女だったし、彼女は私だったから」。案の定、母はすぐにジャンの部屋に向かった。気付かれないよう、靴を脱いで階段を登るジャン。開け放した部屋の入口から覗くと、母が、床の隠し扉を開けている(1枚目の写真)。ジャンは、わざと靴を落とす。その音にハッとして母が振り向く(2枚目の写真)。こっちをじっと見ている息子。気まずくなって、「もう戻ったの?」と訊く。「村には、代わりにクロペットが行った」。母は、「お前の、隠し場所を点検してたのよ」と言って出て行こうとする。ジャンは、母が通れないよう、腕でブロックして、「ママ、ちょい待ち」と言う。「忙しいのよ、おチビさん」。「残念だけど、ここらで『けり』を付けておきたいんだ」。「何て不良なの。私に命令するなんて」。ジャンは、母の目の前で床を開けると、中にあった財布を取り出し、中のお札を数える(3枚目の写真)。「1000フラン! あんたの財布だ。盗んだことにして、罪を着せるつもりだったんだろ? これなら、感化院送りは確実だ。しくじったねぇ。あんたが、財布を入れるのをちゃんと見てたんだぞ。現行犯の目撃だ」。母はぐうの音も出ない。
  
  
  

夜、屋根裏で秘密の会合を開く3人。ジャンが話し始める。「トラッケのせいで、8日間も居残りだ。あいつ、パンを盗んだ奴を鞭打った。番人も、血が出るまで殴った。指を、折られた人もいる」(1枚目の写真)。兄:「何すると、そんな目に合うんだ?」。「もし、断固として反抗しないと、僕たちみんな そんな羽目になるんだ。だから、フォルコッシュに死を宣告するんだ」。そう言うと、「くたばれ、フォルコッシュ」と扇動し、2人も声を合わせて、乾杯する。共同作戦の始まりだ。母が、キャビネットに置いてある薬瓶から、スポイトで「1滴、2滴、3滴…」とコップに入れている。「我々は、毒殺を決意した。ボルジア一族が使ったのなら、レゾー一族が使って、なぜ悪い?」。兄が、陽動作戦を開始。フィーヌの前でお尻をまくっている。それを見て騒ぐフィーヌ。薬の作業を中断して様子を見に行く母。その隙に、ジャンはキャビネットに駆け寄ると、薬瓶の中味を全部コップに注ぐ(2枚目の写真)。それを一気に飲み干す母。薬は便秘薬だったらしく、母は必死で便所に走る。結局、作戦1は、下痢だけで終わってしまう。作戦2は、禁じられた池に行ってボートに乗ること。ボートを用意し、ジャンが木に登る。そして、母がいないかを確かめる。チュチュという音で、ジャンは、すぐ横に鳥の巣があることに気付く。1羽いた雛鳥をわしづかみにすると、持っていた釘を首に突き刺す。下から兄に「何してるんだ?」と訊かれ、「練習さ」と答える。環境により、子供が如何に残酷になれるかを示す、非常に怖いシーンだ。ジャンは、死んだ雛を何の呵責もなく、ポイと投げ捨てる。すると、母の「子供たち!」という声が聞こえ、こちらにやって来るのが見える(3枚目の写真)。木から滑り下り、岸からボートを漕ぎ出す3人。桟橋にやって来た母が、「止めなさい! おやめ!」と怒鳴る。「ここに来ることは、固く禁じてあるはず! すぐに、舟から降りなさい」。桟橋に近付くと、ジャンが「オールをよこして」と、漕いでいる兄から1本もらう。そして、ボートの中で立ち上がると、オールを母に向かって差し出す。オールをつかんだ母。その母を池に落とそうと、ジャンが引っ張る。てこの原理でジャンの方が強く、母は引っ張られて池に落ちる。「助けて!」と叫ぶが、ボートは母からワザと離れ、ジャンはオールを池に投げ捨てて、「オール、落っことした!」と言う。助けに行かないことへの弁解だ。そして、天を仰いで、「早く、溺れさせて下さい」と祈る(4枚目の写真)。
  
  
  
  
  

しかし、このようなことで溺れ死ぬような母ではなかった。子供たち3人を立たせ、暖炉の前で毛布にくるまりながら、母が言う。「首謀者は、分かっています。初めは、重大なミスかもしれないと考えたけど、今では、最悪の事態を覚悟してるわ」。すねた顔で母を直視するジャン。「水と食べ物を与えられなかったら、ブラス・ブイヨンも白状するでしょう。フィーヌ、ジャンを部屋に連れて行って 鍵を掛けなさい」。ジャンを睨む 憎しみに満ちた母の顔が怖い(2枚目の写真)。まあ、殺されかけたのだから、当然だろうが。
  
  

それから数日して、心配した父が、窓の下から呼びかける。「ジャン、大丈夫か? ジャン、窓を開けるんだ!」。応答がなし。父は心配して妻に相談に行く。「ポール、鍵をよこしなさい。大丈夫か確かめてくる」。「気分が悪ければ、知らせてくるでしょ。私と同じで、鉄の様に頑強ですよ」と相手にしない。父は、部屋の前まで行って、「ジャン、返事しなさい。ジャン、ふざけてる場合じゃない! 返事するんだ、パパだぞ」と声をかける。ジャンは、返事などせず、母が非常に大事にしている切手のコレクションをメチャメチャにして楽しんでいる(1枚目の写真)。横には牛乳の入ったコップも置いてあるから、抜かりなく糧食も確保してあるのだ。返事がないので、ドアの前には家族が集まってくる。見かねた母が「この騒ぎは、一体 何なの?」とやって来る。母が鍵を開けても、ドアはびくともしない。中から開かないようにブロックしてあるのだ。「ジャン!」という母の声に反応して、馬鹿にしたような歌声が聞こえる。「楯突いてるのよ、私たちに! ジャン、ここから出なさい! この下司な不良息子! 胸糞の悪くなる、ワル餓鬼め!」。母の言葉も相当なものだ。さらに、「常軌を逸してる! 気違いよ!」と言って、狂ったようにドアを揺さぶる(2枚目の写真)。どっちもどっちだという感じ。父は、「逆上するな。我々はレゾー一族なんだぞ!」と母を諌める。母は、「窓の下に、梯子を持って行って」と命じて下に降りて行く。そして、ジャンの部屋の窓に、長い梯子が立てかけられる。4階分はある高さで、梯子が途中で継いである。兄が、「いいよ。固定した。僕が行くよ」と言うが、父は「いや、いや、私がやる」と言い、太った体で危険な梯子を登って行く。父が3階の辺りまで登ったところで、窓が開き、ジャンの手が伸びて、梯子の上端を外に向かって押す。登っている途中の父は「こら、やめんか!」と必死だ。梯子を戻した衝撃で、父は梯子から落ちる(3枚目の写真)。一旦屋根に落ち、そこから藁束の上にソフトランディング。幸いどこも折れずに済んだ。しかし、母は、「私の目の前で、自分の父親を殺そうとしたね! 解決策は一つしかない。感化院に ぶち込んでやる!」と罵ると、太いバールを持ってジャンの部屋に向かい、ドアをこじ開ける。邪魔していたものを倒してやっとの思いで入り込むと(4枚目の写真)、ジャンは窓から梯子を伝って逃げた後。戸棚には、大事な切手を大量に貼って、「VF」の文字が描かれていた(5枚目の写真)。それを見て泣き出す母。「今度は私の番… 死刑執行人になってやった。少年時代で最も爽快な思い出となった」。
  
  
  
  
  

パリに向かう汽車の中で、私は、社会主義者の新聞を読んだ。それは、ブルジョワに対する批判記事で、溢れていた」。新聞を読みながら、平気な顔でタバコをふかすジャンが怖い(1枚目の写真)。正面に座った老婆は迷惑そうだが、斜め向かいの20代の女性は微笑んでいる。それを見て、にこりとするジャン。女性が降りようとして荷物を取るためジャンの頭の上の荷棚に手を伸ばす。ジャンはわざと腰を浮かして、女性の胸のすぐそばに顔を近づける。「そして、私は、女性にも興味を持ち始めていた。それは、決して不快なものではなかった」。メトロの出口を駆け上がるジャン。出口にある地図をじっと見る。隣で焼き栗を売っているおじさんが、「おい坊主、迷ったんか? どこへ行きてぇんだ?」と訊いてくる。そして、目的地を言うと、親切に乗換駅や、乗るメトロの行き先まで教えてくれる(3枚目の写真)。因みに、このドーフィーヌ門駅の、この出入口は、アール・ヌーヴォーの信奉者ギマールがデザインした140ヶ所の出入口の中で、現在残っている7ヶ所のうち最も美しいものだ。参考までに、私の撮影した写真も添える(4枚目の写真)。ガラスの庇も美しいが、何と言ってもオレンジ色の壁に描かれた精緻な柄が素晴らしい。パリに行かれる方は、是非お忘れなく。
  
  
  
  

ジャンの向かった先は母の実家。門をくぐって建物内に入ると、早速おばさんが出てくる。「坊や、誰か探してるの?」。「ここ、プリュヴィニェックさんのお宅?」。「上院議員様のことかい? それで、上院議員様に、何の用なの?」。「そんなこと、おばさんに関係ないだろ」。「あの方は、上院においでだから、20時まで帰ってみえないわ」。「で、僕のお祖母様は?」。「お祖母様?」。「うん、プリュヴィニェック夫人」。「ですけど、奥様は、あなた様を お待ちなんですか?」。「ううん、僕、家出して来たんだ」。「獅子同盟の大使として、私は、ここの人たちに会いに来た。私の家族との つき合いを、拒んだ人たちに」。孫の家出と聞いて、全身を真っ赤な服で覆った偉ぶった老婦人が、煙管を持ちながら、階段を降りて来る。「何て、気まぐれな子なの? 予告なしに、訪ねて来るなんて! 今は、手一杯なのよ。あらまぁ、おかしな格好をしてるのね?」。そして、額にキスをする。真っ赤な口紅の跡がつく(1枚目の写真)。執事には、「フェリシヤン、娘に電報を打って安心させておやり」と命じ、ジャンには「でも、この悪い坊やにも説明して欲しいわね。何とかしないと いけないもの」。女中に、「ジョゼット、まずお風呂」、召使に「ユルバン、清潔な服を用意してやって」。そして、結局、ジャンには何も訊かずに行ってしまう。ジャンが風呂から出たところに(2枚目の写真)、祖父が帰宅する。「なるほど、空から降ってきた反逆児は、ここにおったのか。不当な罰を受けた犠牲者として、わしの仲裁に すがりに来たのかな? いかにも、悪戯っ子らしい奴だ。この頑固そうな面構え! わしの血が流れとるわい」(3枚目の写真)。ジャンが口を開くと、祖父はそんなのお構いなしに、またしゃべり出す。「ジャックには威厳のカケラもないし、ポールは世間知らずの我儘娘だから、わしに すがりに来たという訳だ。ならば、一家に秩序を取り戻して進ぜよう」。ジャンが口を開くと、「後にしなさい。わしはもう、かなり遅刻しとるんだ。これから、海運委員会に出かけないといかん」。結局、ジャンは何も言えなかった。召使達と一緒に夕食をとるジャン。ジャンが、「みなさん、いただきます」と言うと、執事が「こちらこそ、ジャン様」と応える。「お祖父様と お祖母様は、ここで食事しないの?」。「そんなことはなさいませんよ、ジャン様。お2人は、言うならば 社交界の方ですから」。ジャンは母のことを訊いてみる。「どんな様子だったの?」という質問には、「そもそも、ここには みえませんでした。バカンスを過ごされるベリー地方と寄宿学校を往復されるだけで、ほとんど お目にかかりませんでした」。「ここでは、どこに居たの?」。「部屋は ありませんでした。お休みになられていたのは、お祖父様の仕事部屋にある補助ベッドでした」。「両親にも、会えなかった?」。「ええ、ほとんど。でも、それが当時のやり方でした」。それを聞き、憎いなりに母に同情を覚えるジャン(4枚目の写真)。ジャンが階段の脇のソファをベッドにして横になっていると、祖父と祖母が現れる。祖父:「ジャンを客間に通さなかったのか?」。祖母:「もちろん。今、工事中だってこと ご存知でしょ」。祖父:「こんな時間なのに、まだ眠ってないのか?」。ジャン:「はい」。「じゃあ、君が犠牲者としてこうむった不当な出来事について、話してごらん」(5枚目の写真)。やっと機会が与えられたのだが、ジャンの返事は「もう、分かったんです」(6枚目の写真)。「おかしなことを言う奴だな。君は、お父さんが迎えに来るまで、ここにいるといい」。翌日、迎えに来た父は、「ジャンには心配しました。もし、あの子が、母親から加えられた制裁を不公正と感じているのなら、何とかしてやります。息子を、撥ねつける様なことはしません」と弁解する。祖父は、「ジャンは、何があったか話そうとしないんだが、その不公正とやらを、わが婿くんも黙認しとったんではないのかな?」と鋭いところを突く。そして、立ち去り際に「仲直りするんだな」と忠告する。
  
  
  
  
  
  

館に戻ったジャン。母の寝室に入って行き、寝ている母の横に向き合って寝て、話しかける。「パリで、全部分かったんだ。あんたの、パパとママに会ったから。鬼の様な人たちだった」(1枚目の写真)。これを母が聞いていたかどうかは分からない。翌朝、もしくは、数日後、ジャンが遅れて朝食に行くと、母が「フェルディナン、マルセル、席を外しなさい」と命じる(2枚目の写真)。「私は、船旅で言うところの、『検疫による隔離状態』に置かれていた。私の兄弟は、母に脅しつけられ、私を無視するようになっていった。それは、生涯続くことになる。当時、少年『水夫』でしかなかった私には、『船』を先に進めることしか出来なかった。打つ手は、一つしかなかった」。母との直接対決だ。ジャンが母に訊く。「何か、提案があるんだね?」。母:「望みは何?」。ジャン:「ママと別れること」。「ああ、そういうことだったの!」。「パパを、説得してもらいたいんだ」。「お前のパパを?」。「パパには、贈与金があるんでしょ? 『見て見ぬ振りした時』にもらった、お金が」。そう言って、母がサイゴンで愛人からもらったスカーフを渡す(3枚目の写真)。ジャンは出て行き、母は、スカーフを握りしめながら、「お前って、ほんとに抜け目のない子だね。私とお前は、長所も欠点もほとんど瓜二つなのねぇ」と噛みしめるようにつぶやく。「私は、こうして、過去に背を向け、少年時代を捨て去った。どす黒い憎しみで、反逆を貫き通した結果、自由を勝ち取ったのだ」。ジャンは、神学校に戻ることになったのだ。
  
  
  
  

クリスマス。ジャンが永遠に館を離れる日だ。父がジャンを呼び、「お前は離れて行こうとしとるが、その決断が、満足できるものになることを祈っとる」。「はい、パパ」(1枚目の写真)。そして、父は、大事にしていた万年筆を、「さあ、これは、もうお前のだ」と譲ってやる。「すごいや」(2枚目の写真)。「それに値するよう、努めなさい。毅然として振舞うことだ。レゾー一族として恥じぬように。決して忘れるなよ」。父の胸に頭を付けるジャン。これまで、一度もしたことのない親愛の情の表明だ。客間に全員が集まる。父が、「いいか、じゃあ、ご注目。いよいよ、お出ましだ」と言うと、明るい裸電球が点く。そして、記念写真を撮影する(3枚目の写真)。「私たちが、一堂に会することは二度となかった。多分、それは、兄弟たちよりも、私にとって幸運なことだった。私はすごく嫌われていたから。ああ、フォルコッシュ。あなたは、私を苦しめようと、随分苦しんだに違いない。私は、あなたのお陰で世の中を見て、そこが好きになれた。そこで私は、この本を世に出すことにした」。
  
  
  

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